北京·胡同窯変

北京、胡同散歩が楽しい。足の向くまま気の向くままに北京の胡同を歩いています。旧「北京·胡同窯変」もご覧いただけたらうれしいです。https://blog.goo.ne.jp/hutongyaobian

第239回 北京・紅燈幻影《小百順胡同》

今回は百順胡同の西端から北方向にのびる小百順胡同(XiaobaishunHutong/シアオバイシュンフートン)におじゃましました。


写真は百順胡同の西端から北方向を撮ったもの。
写真正面奥を横切るのは韓家胡同です。



三輪車による胡同巡りを営んでいる方がおられるようです。



三輪車にお客を乗せての胡同巡り、「胡同游」。以前は利用客として欧米系の観光客の姿をよく見かけたものですが、数年前からつづく旅行ばやりのためか現在は地方からの旅行者の利用者も多くなったようです。




こちらは大百順胡同2号。




玄関前に吊るされた洗い立てのスニーカー、玄関脇にちょこんと置かれた小さな椅子、いかにも胡同らしい。




胡同を歩いていていつも感心されられるのは、胡同居住者たちには植物愛好者が多いこと。鉢植えはもちろんのこと、居住者達はネコの額ほどの土地であっても、それを上手に利用して季節ごとの植物育成を楽しんでいるようです。


植物を愛すること、もしそれがその地域に暮らす人々の文化生活の度合いを示すものだとするならば、胡同居住者たちはかなり高度な文化生活を送っていると言ってよいかもしれません。


なにげなく鉢代わりに使用されている日用品たちが、可愛らしい。


楽しい鉢植えの並ぶ向かい側にあるのは、大百順胡同の東出入口。



ところで、胡同関係の本によりますと、この胡同は民国期には西側の「大百順胡同」とあわせて「百順後河」と呼ばれており、1965年の地名整頓時から「小百順胡同」と「大百順胡同」とに改名され、現在にいたっているそうです。


そこで民国期に発行された北京地図(複製)を調べてみました。
すると、以下の二つのことがわかったので報告させていただきます。


一つは、上掲書にあるように百順胡同の西側一帯に「後河」という地名を確認することができた。



上掲の地図は『最新北平全市詳図』(民国二十三年四次、總発行所北平西単牌楼迤南建設図書館)。


今一つは、「後河」という地名とは別に民国期の地図に「小百順胡同」という胡同名が地図上に明記されていること。


次に掲げる地図は、『北京内外城詳図』(著作者王華隆)。
制作年代は書かれていないのですが、解説には民国二十九年(1940年)、あるいはそれよりやや早い時期とある。



上掲の地図を見ると、「後河」(現在の大百順胡同)という胡同名の東側に「小百順胡同」と印刷されていることがわかります。


さて、はたしてこの小百順胡同という地名がいつ命名されたのやら。
「頭が痛いなぁ」。そうつぶやきながら調べてみたのですが、現在のところ不明。今後さらに調べてみることとし、今回は保留ということにさせていただきます。



夏の青空に映える洗濯物。



洗濯物を撮っていたら、三輪車がやってきました。



夏の日の暑い盛り、人通りもなく、しんと静まりかえった胡同。



こちらは、かつて何やらお店を営んでいたようです。
お客とのやりとりに使用した、今は閉ざされた小さな窓。



「街巷胡同管理公示牌」と書かれた、胡同らしい凝ったプレート。



このプレートを見ると、胡同の長さが58メートルとありました。


物音がしたのでその方向を見上げると、白いきれいなハト。



このハト小屋のある二層式のお宅を角度をかえてみると、なんと、その屋根の形式が複数の屋根を前後に重ねる「勾連塔」。




この形式は、北京地方に特徴的なもので、店舗に多く見られるもの。
もともとは寺廟や邸宅、劇場など間仕切りのない広い室内をつくるために用いられるもので格の高いものであったそうです。



胡同関係の本によりますと、今は昔、日本占領時(1937-1945)、この胡同附近には日本人と朝鮮人とが営む「尚元膏店」(表向きは薬屋さん、店舗内では大煙館か)などの麻薬吸引所があったそうです。



いよいよ北端の韓家胡同に到着。
58メートルの旅も終了。



韓家胡同沿いの北出入口から南方向を撮影。


この胡同、長さ58メートルといたって短い胡同、しかも西側にある「大百順胡同」とともに残念ながら隣接している百順胡同や韓家胡同などとは違い、その知名度が実に低い。というより、まったくといっていいほど知られていない。しかし、この胡同、となりの大百順胡同とともに、調べると芋づる式に興味深いことがいろいろと出てきそうというのが、今回歩いてみての実感でした。


《参考資料:『北京地名典(修訂版)』王彬、徐秀珊主編、2008年11月。『北京 都市空間を読む』陣内秀信など編、2000年3月30日第2刷、鹿島出版会。『八大胡同』李金龍、2000年10月第1次印刷、中原農民出版社》

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