北京·胡同窯変

北京、胡同散歩が楽しい。足の向くまま気の向くままに北京の胡同を歩いています。旧「北京·胡同窯変」もご覧いただけたらうれしいです。https://blog.goo.ne.jp/hutongyaobian

第245回 北京・紅燈幻影 《青風夹道(前)》

今回ご覧いただきますのは「青風夹道(Qingfeng jiadao/チンフォンジアダオ)」。



当日は大柵欄西街沿い小力胡同内の東出入口から入りました。



胡同内に取り付けられた案内板や胡同関係の本によりますと、この胡同の名称は清の時代「火神廟夹道」。胡同内に「火神廟」があっ
たのがその由来になっています。



「夹道」とは、両側に建物や塀の続く細い道のことですが、この胡同の道幅は文字通り細く、写真前方に見える所などは、その道幅、
およそ65センチほどしかありません。



火神廟のあったと言われる場所は現在の青風夹道1号院内。



左折すると、こんな風景が目に飛び込んできました。



手前のお宅。


住所は青風夹道2号院。


この2号院の玄関前には塀があり、その上部には雨風でやや色あせた“中国結”が下がっていました。



この中国結のあるお宅が、もと「火神廟」のあったという青風夹道1号院。



火神とは、火を作ったといわれる炎帝(えんてい)のことだ、あるいは、帝嚳(こく)のときに火をつかさどる役、すなわち火正(かせい)になった祝融(しゅくゆう)がその死後に火神になったのだなど諸説あるのですが、窪徳忠著『道教の神々』(講談社学術文庫、2000年12月20日、第9刷)によると、祝融を火神とする考えがかなり一般に広まっているとのこと。


なお、同書によると、道教では火神を「火祖」「火祖大帝」「火徳真君」と呼び、旧6月23日が火神の誕生日になっているそうです。


火神の正体と火神を祀る理由について、羅信耀著、式場隆三郎訳『北京の市民 上巻』(文藝春秋社、昭和16年11月10日)は次のように書いています。引用にあたり、一部表記を改めています。


“火神はその名を一時祝融といって、神に祀られる前は人間であったが、祝融という名
と、彼が火神だということが周代の文献を編纂した漢の「礼記」に記されてあることから見て、明らかに昔のものである。この神が元来火を発見し、それを有益に使用したのを紀念して祀られたという想像も理屈にあっているが、次第に人々はこの神が人家に火を放って天罰を与える役目をもっているのだと信ずるようになった。だから火神を祀るのは、その祀っている人の家にこの神が訪れるとすぐそのあとに火事が起るというのをあらかじめ防ぐ手段なのである。”


つまり、火神廟は時によって生命・財産を奪う火災から人々を守る働きをもっていたと言えるわけですが、そういう働きを持つ火神廟が、繁華な商店街、観音寺街(現在は大柵欄西街)に隣接するこの胡同に置かれたのは至極もっともなことだったと言えそうです。


ちなみに案内板には書かれていないのですが、『北京胡同志』(主編段柄仁、北京出版社、2007年4月第1版)によりますと、この火神廟は「三聖庵」とも呼ばれていたそうです。ただし、この「三聖庵」についてはこれ以上のことは現在不明。



次の地図は昭和13年(1938年)4月5日発行、東京アトラス社編纂『最新北京市街地図』(複製)。赤線内が「火神廟」。「卍」マークの位置が現在の1号院とほぼ重なっています。


2号院前辺りから南方向。


上空に灯籠(提灯)がさげられているのが印象的でした。



突き当りを右折。



右折したところにあるのが青風夹道1号院。



火神廟の面影が残っているのかどうかはさておいて、おじゃましてみました。


正面奥の家の軒には鳥籠。



南向きの正面奥の家の二階部分。


東向きの西側の建物二階部分。


西側の建物脇の階段。


玄関を出ると目の前に胡同植物園。



こちらが植物園の造園主のお宅。
青風夹道4号院。


木製ハシゴの上に小さな椅子。



振り返ると、絶妙なカーブを描く狭い路地に拡がる豊かな世界。



植物園との別れを惜しみつつ、さらに南へ。



突然ネコが姿を現しました。


こちらは6号院。


6号院の対面は青風夹道甲1号。


甲1号院の前から南前方。再び植物園が姿を現しました。



こういう光景に出会うのは実に楽しい。道行く人も心が和むのではないでしょうか。


こちらの植物園は8号院。



8号院斜め前の植え込み。



前にも書いたことなのですが、植物を愛すること、それがその地域に暮らす人々の文化生活の度合いを示すものだとするならば、胡同居住者たちはかなり高度な文化生活を送っていると言ってよいかもしれません。



余談になりますが、本年8月の下旬に、北京の植林に関する記事を目にしました。題名は『北京の約半分で緑化達成、毎年延べ200万人が植樹に参加』というもの。植物関連つながりということで、一部省略しましたが、次に掲げてみました。興味をお持ちの方はご覧ください。


8/22(木) 8:35配信 CNS(China News Service)
“現在、全市の森林率は43.5%、緑化率は48.44%に達している。”
“2018年は1980年と比べ、北京の森林率は当初の12.8%から43.5%まで向上、都市緑化率は20.1%から48.44%へ、1人当たりの公園緑地面積は1978年の5.1平方メートルから2018年の16.3平方メートルへと増加した。”


“北京市は全域で2154万2000戸の常住人口を抱え、3兆元(約45兆円)の経済価値を生み出し、それらは主として平原地区に集中している。特に、永定河(Yongding River)、潮白河(Chaobai River)、大沙河(Dasha River)などは「5大風砂被害区域」といわれており、その面積は全市の平原面積の4分の1を占め、首都の生態環境に最も直接的で最も主要な影響を与えている。”


“数十年のたゆまぬ努力により、「5大風砂被害区域」で1万6900ヘクタールの防風防砂林を建設し、永定河周辺で長さ70キロメートル、森林面積約9340ヘクタールのグリーンベルトをつくり上げ、「5大風砂被害地区」の面積のうち16万5100ヘクタールの土地において砂漠化が抜本的に改善されている。”(c)CNS/JCM/AFPBB News

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